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8割増しで、突き刺さる言葉

鬱、という病にかかっていると、ときに、他人からの言葉は「悪い」ように聞こえる。

病が深く、あるいは長くなるほど、相手はあなたを非難し、あるいは嘲笑し、あるいは情けないと、

そう思って発言しているに違いない、と、あなたが受け止めてしまうのである。

もしかして、相手は非難や情けなさ、ではなく、心配しているのかもしれない。

嘲笑ではなく、励ましたいゆえの笑顔なのかもしれない。

それなのに、あなたは怒られた、バカにされた、笑われた、と受け止めているかもしれないのだ。

そう、人の意見が、悪い部分のみ8割増しくらいの勢いで強調されて、あなたには、突き刺さるのだ。

そうして、自分はダメなヤツだと思われている、と結論づける。

いろいろな人との間でそういうことが起こり、あなたは人を信用できなくなる。

信頼関係は、そうしたきっかけから、どんどん崩れていく。

やがて、私は孤立している、こんなに苦しいのに誰も助けてくれない、

それはやっぱり、私がダメな人間だからだ、だから嫌われるんだ、

と、無限の下降ループに落ち込んでいく。

普通に考えた場合でも。

誰かと話すとき、相手が何を言っても自分の言葉を疑い、

不安そうにおびえた表情をし、あまり楽しくなさそうに返事をしてきたら、

その人と楽しく、仲良く話すことは難しくなるだろう。

自分を疑う人と、仲良くしたいだろうか?

信頼して、心を打ち明けられるだろうか?

本当は、相手に自分を信頼してほしいなら、自分も相手を信頼できなくては、

少なくとも、そういう雰囲気をお互いに持たなくては、近づけないのである。

相手が一方的に心を開いて、近づいてくれたら、私も安心して心を開ける。

そんな受け身で、ある意味、横柄なことは、普通は発生しないのだ。

なぜなら相手にも、心があるから。あなただけのことを考え、

自分の気持ちを犠牲にする、というのでは、信頼ではなく服従に近い。

そんな関係は、あなたも求めていないだろう。

でも、あなたは怖いから、自分から心を開けない。

こうなると堂々めぐりで、あなたは人と仲良くすることも、何かズレが生じたときに、

その場ですぐ、真摯に向き合って、相手の誤解を解くことも難しくなる。そして、人が信用できなくなっていく。

なぜ、そんな事態になるか。

あなたが、今、自分を嫌っているからである。その病のせいで、自分をも、疑うのだ。

自分のことが許せないから、自分を信頼もできない。

そして自分を信頼できない主な理由は、「人はこうあるべき」という条件づけをしていて、

今の自分は、その理想の条件に「当てはまっていないから」である。

例えば「なにくそ!」と思って、自分を叱咤激励して、頑張ってみることもできる。

その結果、ちょっとは理想の条件に近づくこともできたりして、

自分を認めてあげられるチャンスも、もしかして訪れるかもしれない。

でも、鬱のときはたいていの場合、自分の思い通りに頭や身体が働かないから、

結局、自分を嫌いになる要素を増やしてしまうのである。

つまり、その暗い無限ループは、鬱という病のなかにとどまっている限り、

発生し続けてしまうのだ。

でも、鬱を治していくには、自分だけの努力では難しいことがある。

もちろん、自分自身がしっかり治そうと決意することは、この病気では絶対と言えるほど大切だ。

でも、1人だけで何とか、こっそり治そうとしても、たぶん、限界がある。

なぜなら、考え方、受け止め方を変える練習が必要だからだ。

先に書いたように、自分で自分に条件づけをしていることに気づかなくてはいけないし、

それも、どんな場面でどんなふうに考えることが「条件」になってしまうのか、

さらには、「なぜそんなふうに受け止め、考えるようになったか」まで、

自分の思考パターンを掘り下げていかねばならないのだ。

それは、今まで気づかなかった点に気づくという練習だから、自分1人で本などを読んでも、限界が生じる。

また、自分の受け止め方の視野が狭くなっているから、余計に気づきにくい。

ではいったい、どうすればいいのか。

まず、自分がそういう「病」であることを、認識する。

そして最初はその「病」を治すことに、意識を集中していくのだ。

自傷行為があるなど、鬱としての病が重くなっている場合は、医療やカウンセリングなどをきちんと

受ける必要があるだろう。ただし、薬は依存もあり得るので、薬だけに頼らない治療や

納得できる治療方針を掲げているところを、ネットなどで探したほうがいいだろう。

そして、周囲の人、医師やカウンセラー、家族などに、本当の気持ちを打ち明け、丁寧に説明すること。

家族はときによって、最初はとくに、「鬱であること」自体を、嫌がるかもしれない。

「ちゃんとした人」でいてほしいがあまりに、認めたくない、という気持ちが働くからだ。

でも、身近な人たちの協力を得ないと、あなたもまた、自分を休ませることができなくなる。

ここだけは、本当に丁寧に、勇気を持って、対応してほしい。

ぶち切れてもなんの役にも立たない。あなたも家族も苦しくなるだけだから。

本心を伝えるのは、とても苦しいと思う。でも、泣きながらでもいいから、ちゃんと話してほしい。

あなたは、今のままの状態でいたくないはずだ。

だから、そこだけはどうか勇気と根気を持って欲しい。苦しさを、伝えてほしい。

そうして、協力してもらえる環境を作りつつ、病を治していこう。

その病は「気づき」を得ていけば、治っていく確率がぐんと上がる。

そのための方法を、病院の医師や、カウンセリングの先生と、相談しよう。

相性的に合わない人もいるから、その場合は他の病院を選んでもいい。

そうやって、あとは、あなたが心を許せる人を、作っていく。

あなたのなかから、人を信じてみよう、という気持ちが自然に表れるまで、治療を中心にして過ごし、

表れてきたら、少しずつでも、人と接していこう。

誰かに、なんとかしてもらうわけではない。

家族や薬が、なんとかしてくれるわけではない。

あなたが、あなた自身をもっと別の見方で見られるようになり、

あなたの人生を、自分で組み立てていくために、自分で新しく変わっていくのだ。

他者から、気づきのサポートは受けても、あなたが、自分を好きになる、そして他人を好きになる、

自らそういうふうに変わっていくんだ、という気持ちを持つことが、この病では一番、大切。

自分を根底から否定することは、本当は、まったく、必要ないのだから。

そして人の言葉を「悪意8割増し」で受け止めるようなことも、もう、やめていっていいのだ。

怖いけれど、どうか少しずつでもいいから。

勇気を、だそう。

人としての誇り

誰かと比べて 社会と比べて 自分の存在価値を はからないでください

人として この世に生まれたのですから あなたは 価値を持っています

何かを成すから 役に立てるから 存在していてもいい という話ではありません

何かを成し遂げたり 誰かの役に立ったりすることは 「自分の」喜びにつながります

人はもともと そういうふうに できています

だから 病のせいで何もできなくなると つらいのです

それでも

その病を治していけば あなたはまた その喜びを 感じられるようになります

できないと「決めつける」のは 脳のミス 病の症状であり

あなたの脳が今 勝手に そう感じているのです

そうした判断ミスを 犯しているのです

心は 人とのふれあいを求め 何かをして達成することを求め 充実感を 求めます

でも 身体や頭は 言うことを聞かず それゆえに できない と思ってしまいます

それこそが この病の 症状 なのです

あなたは 病のときであってさえ 自分を大事にしてあげていいのです

病のときだからこそ なおさら 自分に優しくしていいのです

そうすることで その病から やがて 離れることができます

できるときに できる範囲のことを 無理のないやり方でこなす

ご飯を食べる 寝る 起きる それだって今は 大切なのです

欲求がかなえられないからと 自分や人に八つ当たりするのは

あとで自分が苦しいだけなので もうやめにして

今はただ できるだけ ゆるやかに過ごすことを 自分に「許可」してください

やるべきことだけ やらなくちゃいけないことだけ なるべく丁寧に ゆっくり やって

あとは 自分に優しくして いいのです

あなたは いかなるときでも 自分に価値を認めてあげていい存在です

誰かより ではなく 何かするために ではなく

そんな比較をするのではなく 自分は 自分であっていい

ただもう それだけで 本当はいいのです

人として生まれたのであれば 「自分」という誇りを 持っていていいのです

それが すべての始まりとなり 本当は すでにあなたはそういう存在です

だから だいじょうぶ 今は何より その病を治していきましょう

そしてまた あの「喜び」に少しずつ 向かっていきましょう

あなたが否定する限り

鬱という病になった人は、たいてい、自分を責め、否定を繰り返す。

そうなってしまった自分を弱いと思い、情けないと思い、キライと思い、この苦しい状況がイヤだと思い、

それなのに何もできない、ダメな人間だと思う。

どうしてそんなグルグルした思考に陥るのか。

だって、そういう「病気」だからである。

あなたは、自分の頭でなんとか考えて、この状況をどうにかしなくちゃ、と思う。

でも、この病気は、脳の思考回路が「否定」にしか向かわない。

悪いほうへ、悪いほうへ考えていく「道順」しかたどれない。

だから、普通なら自分で思いつける解決策を、脳が上手く働かないために、

なかなか思いつけないし、ひらめくことも、できない。

反省しようが、後悔しようが、全部、結果としては「自分を責める」、

あるいは「周囲の人や状況を責める」ところにしか、

行き着かないのである。そういう「症状」が出る、病気なのだ。

なのにあなたは、イヤな気分がつづくから、頭で一生懸命、考える。

脱するためにはどうにかしなくちゃ、と思い込んで、考える。

そして、どんどん、悪い方向の思考を増やす。

あれがいけなかった、これもいけなかった、アイツが悪い、あのときにああしなかったらよかった、

あんなことさえ起こらなかったら、あのときなぜ、どうして私は……。

だからね、悪いことばっかり考えたくなる病気なんだよ、本当に。

そんなグルグルした思考を続ける限り、あなたは、よくならない。

咳をしているときに、自分でさらに身体を冷やし、空気を乾燥させ、どんどん、咳をひどくしているのだ。

そうやったら、咳は止まるのか? いや、今度は発熱して、頭も痛くなって、鼻水も止まらなくなる。

なのにあなたは、悪いことを考え続けるのをやめない。どうしてなのだろう?

そこから、抜け出したいからだ。

そして、そんな自分を、キライだと思い、否定し続けるからだ。

咳を否定して止まるのであれば、否定すればいい。

咳を我慢して止まるのであれば、我慢すればいい。

または、さらに新たに身体を冷やし、空気を乾燥させ続ければいい。

それで本当に、あなたの場合、止められるのであれば、ね。

そんなことで咳が止まるはずがないとわかっていて、どうしてやるのか。

弱い自分なんて、認められないからだ。

どうして、病のときに弱かったら、いけないのだろう。

がんばって、無理して、弱って、病になって。

そうして、病人が、弱かったら、なぜ、許せないのだろう。

いいじゃない、病人のときくらい、弱くたって。

弱い自分でも、大切な自分じゃない。

今までの大切な自分は「何かが立派にこなせるから」大切だったの?

「ちゃんとできてる自分」だから、自慢げに、自分のことが大好きだったの?

そんな条件付きで、自分を見てたの?

100点取れるなら、いい子。言うことを聞いてがんばれる子は、いい子。風邪を引かない子は、いい子。

5点しか取れない子は、要らない。言うこと聞かない子なんて、キライ。風邪引くような弱い子はダメ。

そんな「○○できる」ことが条件で、自分を好きとかキライとか、判断してたの?

これ、もし親が、自分の子どもに言い続けてたら、ひどいよね?

条件付きでしか、あなたを愛さない、って言ってるんだよ?

今、あなたは、そんな仕打ちを、自分にずっと、繰り返しているのだ。

それで、そんな仕打ちを続けて、自分が立ち直れるだろうか?

違うよ。

弱った自分を、可哀想に、つらかったね、なんか理由があったんだよね、

病気なんだもんね、今はゆっくり寝て、体力を養おうね、食べたいもの、ある?

そんなふうに「いたわって」あげない限り、この病は、治らないんだよ。

脳が正常な状態に近づいていけば、「そうなった理由」や

「次から気をつけるためのポイント」なども考えられるようになる。

でも、マイナス方向にしか頭が働かないときは、どんなに自分を責めたって、

どんなに自分を追い詰め、叱咤激励したって、どうにもならないのだ。

だって、頭の回路が否定形になって、心も身体も重くなる病気なんだもの。

あなたが否定を続ける限り、あなたは、その病から脱することが相当、困難になる。

なかなか治らない風邪を、ずっとずっと引き続ける。さらに、ときには悪化させる。

本当に治したいのなら、今、自分が病であることを認めようよ。

今、自分が弱っていることを、ゆるそう。

病のときは、そんな自分であっても、いいのだ。

できないのはあなたの「意志がダメ」なのではなく、「病気」のせいだと、わかろう。

そんな自分を、ちゃんと病人のように、親切に扱って、心地よく過ごせるように気を配り、

しっかり眠れるよう、対策をとろう。血行をよくして、足元を温めて、睡眠薬だって、上手に使えばいい。

ご飯も、身体や脳の働きをよくするために、できるだけバランスよく、少しずつでも食べていこう。

本当に、自分がそこから抜け出したいのなら、自分を否定するのではなく、弱さを許し、いたわる。

どんなに遠回りに思えたって、自分に甘いように思えたって、そこから始めるしか、ないんだよ。

そこから始めれば、あなたは、弱い自分がいてもだいじょうぶになる。

それはつまり、あなたが、結果的には強くなるってこと。

その病にかかりにくくなる自分へ、変えてもいけるのだ。

そう、弱い自分を守り、いたわるようにすれば、きっと必ず、抜け出せる。

だから、もう、これ以上の否定は、自分イジメは、やめよう。やめていこう。

あなたという人は世界にたった1人しかいない、大切な大切な存在なのだから。