昨日、「ひと休み」のほうで書いた『3月のライオン』のなかで、
とある人が言ったセリフ。
「リングに上がりもしねーで
野次だけ飛ばすヤツを見ると
虫酸(むしず)が走るんだよ」
これは勝負の世界で噛みつくタイプの人が、あるシーンで
ケンカ腰に他人へ吐いているセリフだけれど、
うん、確かにそうだよな、と思える面がある。
たとえば私は「媒体を作る」ことを仕事にしているので、
クライアントさんの中で、たまに「どこかを必ず批判して
変更させること」を自分の仕事と思っておられそうなタイプの
上司の方に、出会ったりもする。
打ち合わせを重ね、制作に入り、完成間近になってから
「ここはこうしたほうがいい」といきなり大変更をかけてくるような方だ。
その変更理由に意味があればもちろん、大切なことだし、
こちらもきちんと考え直さなければいけないのだが、
以前に言ったことを「忘れて」、思いつきで
こっちのほうがいい、とおっしゃる方もいる。
ゆえに私は、経験を積むごとに、そういう匂いがする上司の方にはあらかじめ
きちんと丁寧に「言質」を取り、以前に言ったことを忘れないようにしてもらい、
もし変更する場合は、どれくらいの費用と時間が追加になるかを、
その場でざっと話して確認し、まず了承してもらう、
そうしたことを心掛けるようになった。
顧客満足度を考えれば、変更すること自体は普通にありえる。
変更そのものが問題なのではない。
ただ、ここまでもう進んでるから、追加の費用と時間をいただきますよ、
しかもそれを言ったのはあなたですからね、と
その場で確認し、今後の方針を了承してもらうのだ。
言った人を、制作のほうへ巻き込むような形。
そして発言したからには、責任の一端は担ってくださいね、と
ご本人に自覚していただくわけだ。
とはいえ、これが大企業の役員様クラスになると、
こちらも言うのにかなり度胸がいる。
しかし作るものに対する責任は私にあるから、
たとえ相手がお偉い様でも、場合によっては
きちんと「現実」を見ていただかなくてはいけないのだ……。
そう、変えることには、責任が伴う場合が多い。
自分自身を変えていくときにも、やはり何か、
新しい負荷のようなものがかかるのだ。
だからと言って、何も責任は取らずに
ただ文句をつけたり、「本当はこうあるべきなんだよ」と
言葉だけ並べるのも、違うと思う。
それが自分自身のことなら「言ってるだけで変わらない」ってことに
つながりかねないし、自分以外への提案なら、
「変えることで新たに起こる問題点」には、
言った人もきちんと向き合う必要はあると思える。
せめて、新たな問題点を把握し、それについては、
じゃあどうすればいいか、考えを提示する覚悟を持ってほしいのだ。
そうでないと、本当にただの野次馬になったり、
高みの見物をする卑怯者になりかねない。
ならば変えないほうが無難でいいのか、という話にもなりうるが、
うん、たぶんね、多くの場合で、新たな問題点のほうに自分が
まったく責任を負う気がないなら、
口出しはしないほうが無難だろう。
言い方を変えれば、自身の問題点については、
自分が新たなリスクを負うしかないのだ。
怖くても、震えても。
変えたいのであれば、まずは一歩、くらいから、
新しく自分でやってみるしかない。
慣れているやり方、思考のほうがどれほど苦しくても安心なのは、
そこで起こる問題点自体を「すでに理解しているから」、
まだ少し、安心なだけなのだ。
リスクは負いたくない、でも変えたい。
周囲にせよ、自分のことにせよ、
それはかなり、難しいことなのだと思えるし、
実際やってみると、リスクだと思っていたものが
全然つらくなかったり、「意外とやれるんだ」という
新たな「自信の源」みたいなものにも変わったりする。
そして何より、変化が楽しい、と思えるはずだ。
自分は何も負わず、何も対策を考えず、
周囲にただ変えろとか言ってるだけなら
それは「自己満足」に過ぎないのだろうと。
まあ、自己満足が狙いの人もいるのだろうけれど……。
そうであるなら周囲には、認めてほしいとか、同意してほしいとか、
その手の負担はかけないほうが良いだろう。
とくに自分を変えることは、自分にとって新たに苦しいかもしれない。
それは多くの場合、恐怖心となって表れるだろう。
でも、今の苦しさが本当にイヤなのであれば、
その「新たに生まれる恐怖心」と、
どうしても少しずつ、向かい合ってみるしかないのだ。
より良い、自分自身の明日のために。
自分で自分の責任をとろう、と、決めてみる。
失敗したところで、実はそれが次のヒントになることも多いから、
ちゃんと、自然に学べるようにできているんだよ。
結局は口先ばっかりの卑怯者なんだ、とか、
自分を卑下したりするよりは
きちんと「自分をそれに関わらせてみる」ほうが
よほど楽になれる場合が多いことは、知ってもらえたら……と思う。
それにね、丁寧に向き合えば、対策は、やっていくうちに
きちんとひらめいて、さらにいろいろ考えられるようになるよ。
私の経験でもそうだったし、それはたくさんの
「変えたい人」が、「やってみたら気づいた」と、
私と似たようなことをおっしゃっているので、本当の話。
だから、大丈夫。変えたいなら、勇気を持って自分から、
まずは一歩、踏み出してみてほしい。
あなたを変えられるのは、あなた自身の力であって、
それをもう本当は奥底に備えているからこそ、
変えたい、と、今、あなたは思えるのだから。