他の人から、傷つく言葉を投げかけられた経験は、
心が痛んでいる人なら必ずひとつは持っているだろう。
それが原因で余計に落ち込んでしまったり、怒りを感じたりもしたことと思う。
本当に腹が立った場合や悲しくなったときには、
改めてその言葉を思い出し、また傷を深くすることもあるかもしれない。
直接的な悪口、たとえば「ののしり」のようなものであれば、
言った相手があきらかに悪意を持っていることは、こちらにも伝わってくる。
だから言われたときは、腹が立つと同時に「どうしてそんなことを」と思うだろう。
そしてあとから「自分に非があったのか」などとさえ思い始め、つらい気持ちになる。
しかし心理学などの本を読むと、そうした「悪口」についてはこのように説明されている。
「相手は、自分自身が何かを抱えているがゆえに、それを人にぶつけてくる」と。
その一番わかりやすい例は、八つ当たりである。
自分が何らかの理由でイライラしていて、それを自分で解消できないがゆえに、
人にきつくあたることで別の感情を得て、一瞬、忘れようとする。
悪意を見せるのは、怒りがあるときに思わずものを殴ったり、投げたりするのと同じ、
ある種の破壊行動によって、相手が自分の問題を解消しようとしているのである。
ほかに、あなたに対する嫉妬だったり、自分のペースに合わないことへの
苛立ちなどもあるかもしれない。
そうした黒い感情から、イヤミな言葉を投げかけてくることもあるだろう。
こういう場合はもう、放っておくか、忘れてしまおう。
以前に書いた「黒い人」のところでも話したが、その黒い感情は相手側の問題であり、
実は自分とは関係がない。指摘されて「悪かったな」と思う部分だけ、反省すればいい。
その人は、誰かを征服する、あるいは傷つける、あるいは揚げ足をとるように人のせいにすることで、
自身の問題を、一瞬、忘れようとしているだけなのである。
そんなことに、こちらはかまっていられない状態なのだし、単純にかまう「必要」もない。
「ああ、あなたも何だか大変なのだね」と思って、本当はそれでおしまいにすればいいのだ。
その瞬間にはそう思えなくても、後からそう思いなおすことはできる。
今はとくに自分がつらい時期なのだから、少しずつでも、何度でも、相手の問題を自分から切り離していこう。
切り離そうとこだわるのではなく、そのうち忘れてしまうくらいのつもりで、丁寧に距離を置いていくのだ。
もうひとつ、相手が自分のことを別に嫌ってはいなかったときに、
それでも的外れな指摘をされ、結果的に傷つくこともあるだろう。
これは、その人があなたの気持ちや状況を把握しきれず、勘違いしたことや、
たまたま「その問題に対処するのが得意」だった場合などに起こったりする。
本人はアドバイスのつもりだったり、「大したことがない」と捉えられるわけである。
これはもう、ある意味、仕方ない。あなたとその人は、違う人間なのだ。
その人の感覚・対処方法と、自分のものとが違うのだから、
そこにズレが生じることはあるだろう。
ただ、だからと言って、相手に怒りや苛立ちを感じる必要は、本当はないのだ。
「そうか、そこは考え方が違うのか」。冷静に考えれば、これでおしまいでいい。
なのに自分の気持ちを理解してもらえないと苛立ったり、悲しくなったりするとき、
実はあなたにも最初から「相手に頼って、助けてもらおうとしていた」という部分がある。
単純なたとえで言えば、子どもがおもちゃをねだり、ほしいおもちゃ以外とは別のものを渡されて
「違う、それじゃない!」と思わず叫んだりするのと、同じパターンである。
相手には、相手の価値観がある。過去に自分とは別の経験があり、性格の違いもある。
だからこそこちらも、自分と違う考え方、捉え方を知りたくて、頼るのだ。
そのこと自体が間違っているわけではない。
ただ、たまたまその結果、相手から理解が得られなかったとすれば、
それは別に、傷つくことでも、苛立つことでもないはずなのだ。
怒りや悲しみなどを感じる原因は「どうしてそんな的外れな」「どうしてわかってくれないの!」という、
あなた自身の受け止め方にある。
相手に、悪意はない。求めていた言葉が得られなかったとしても、それはそれで仕方ない。
相手は素晴らしいプロカウンセラーではないし、逆にあなたのことを心配し、
気遣ってくれていることも多いだろう。
それをもう、余計なお世話だとさえ思うかもしれない。
でももし、逆の立場になったら、あなたは確実に相手が求めている言葉で、
毎回、必ず相手の望んだ通りの対処ができるだろうか。
たとえプロでも、受け取る側に「的外れ」だと思わせてしまうことがある。
実はかなり難しいことだし、自分の意に沿えばお互い「幸運だった」くらいに思っていいのだ。
だから、傷ついたり、怒ったりする必要はないし、その人と意見が違うからと言って
逆に、自分をダメだと非難する必要もない。
今は自分の気持ちが暗いがゆえに、その意見に納得できないだけ、という場合もある。
自分の状態によっても、受け止め方は大きく変わってくるのだ。
実際、理解が得られないと、その瞬間は悲しくなるだろう。苛立ったり、悔しくなったりもするだろう。
でもそれを他人のせいにしたところで、今度は、
先に書いた「自分に問題がある場合の八つ当たり」と同じである。
冷静に、「そういうこともある」と、ただ単純に受け止めよう。今はそれでいい。
あとになって、誰かから言われた言葉で何か、ハッと気づけることも、あるかもしれないのだ
だから今は、相手がこちらを気遣ってくれた、その気持ちにだけ感謝して、おしまいにしよう。
一見、当たり前のようなことを書いているが、傷ついてしまうときには、このことを忘れている。
だから傷んでいる今はなおさら、心のどこかにとどめておいてほしい。
あなたは、悪意、善意、どちらの場合であっても、傷つかなくていい。
あなたはそれで、大丈夫なのだ。