「見つめる」と「吐く」

鬱になると、どうしても、気持ちが落ち込み、頭の中でいろいろなことを「思考」してしまう。

これまでの経緯とそこに至った理由、今後の自分、生活のこと、お金のこと、仕事のこと……。

心理的にも物理的にも動けなくなったのだから、不安が出るのは当たり前だし、

暗い気持ちしか浮かんでこないなかで、いくらいろいろ先のことを考えても、いい答えは浮かばない。

しまいには、小さかったときのイヤな思い出まで自分のなかでつなげて、

人のせいにしたり自分のせいにしたりする。

そういった「暗い思考」を重ねることで、どんどん気分は落ち込み、つらくなっていくのだ。

このとき、私たちは「理性的に考えたイヤなこと」と、それによって感じる「重い気分」の両方を味わっている。

そうして、言葉で思い浮かべる思考のほうは、どんどん展開させてしまう。

ある意味、キリがなくなってしまうのだ。

でも、それを繰り返したところでよい解決策は見つからない。

そりゃそうである。風邪を引いて熱があるときに、わざわざ、このまま熱が続いたらどうしよう、

すぐに下がらないなんて私はダメだ、と言っているのと、同じだからである。

残念ながら、熱や怪我などのように、ただ寝ていれば治る種類の病ではないので、自分で徐々に

いろいろ変えていかなくてはいけないのだが、どうしたら、そこから抜け出せるか、

特に最初はわからない人が多いだろう。私もそうだった。

自分の考えや受け止め方、などについては、これまでにもいろいろ話しているので、

今日は単純に、とにかくつらい気持ちをやりすごすための切り替え方について、話してみようと思う。

治っていく過程で、どうしても「ぶり返し」のような感情の落ち込みの波が来るので、

その波の、ひとつの乗り切り方についてだ。

先ほど「イヤなこと」という思考と、「重い気分」という2つを味わっている、と書いた。

イヤなことを考えているとき、胸の奥のほうでは本当に「どよ~ん」としたモヤのような、

黒くて重たい塊を「抱えている」ような気がすると思う。

あるいは、胸が「締め付けられたり」、「苦しくなったり」。

これって単なる比喩表現ではなく、本当に「身体感覚」に近い形で、それを感じると思う。

そして、そういう「もの」を胸の辺りに感じるからこそ、それを利用するのである。

まず、その「どよ~んとしたもの」や「苦しさ」「鈍い痛さ」だけに意識を集中してみる。

すると、ますますはっきり、「胸の奥のほうのどこか」に、黒いものがあるように感じられる。

これらは「つらい」「悲しい」「苦しい」という気持ちのサインだ。

それを「感じ」ながら、自分に「つらいものをここに抱えてるね」「私、今、つらいね」「きついなあ」って、

心の中で話しかけるのである。その「黒いもの」を、外側から見つめるような感じ。

そして胸の奥に「そういう何かがある」ということを、わざわざ言葉にして、認識するような感じだ。

この黒くて重いものを感じるがゆえに、私はつらいと自分でわかるんだよな、と。

じっくり、その重たさ、暗さ、どよ~んとした感覚を味わう。

このとき、すでに泣ける人もいるだろう。

そうしてしばらくたったら、今度はそれを、吐き出してみるのだ。

これは本当に、文字通り行為として「吐き出す」。息で、言葉で、歌声で。

頭の中で、次のようなものを映像としてイメージしよう。

息を吸うとき、そのどよ~んとした黒いもの、雲か液体か、そういった類のものを、

一緒に一部、肺の中へ吸い上げる。

で、肺いっぱいまで吸い込んだら、その黒いものが混ざった息を、ゆっくり、丁寧にふ~っと吐くのだ。

少しずつしか吐き出せないので、吸ってはゆっくり吐く、吸ってはゆっくり吐く、を繰り返す。

イメージを思い浮かべ続け、徐々に、奥のほうの黒いもやもやが減っていくことを確認する。

そういうイメージを浮かべていれば、勝手に、黒いものが減っていくのも感じられるはず。

呼吸のリズムと映像イメージだけに集中して、これを何度も、繰り返そう。

あるいは、言葉にする。黒いものを、息のときと同じように肺、さらに口の中へ移動させて、

「今、私はつらさを吐く」と言う。言うときには声に、黒いものを混ぜて吐く。

言葉で「吐き出す」(と声に出して言い、また黒いもの一緒に息を吸う)

→「吐き出す」(息を吸う)→「吐き出す」(息を吸う)というふうに、

動詞だけを繰り返してもいい。

単純すぎて飽きてきたら、今度は、歌に乗せて、空へ返してしまおう。

上へ昇らせてしまうイメージを思い浮かべるのだ。

なるべく高めの声で歌える、音階の美しい歌を選ぶ。

余計な記憶を思い出さないように、因縁の曲ではなく、昔から好きな、キレイな歌がいい。

CDがあれば一緒にかけて、曲に合わせて歌う。

美しいメロディーと歌詞で、吐く息を歌声に変え、同じく黒い気持ちを乗せるのだ。

これも、声に混ざって「黒さ」が出ていく映像イメージを思い浮かべながらやるといい。

寝ている状態であってもなるべく姿勢をよくして、腹に力が入るようにし、

鼻と頭蓋骨の中を声が通って、上方向へ響かせるような。

それが頭のてっぺんから出ていく感じだ。

慣れてくると徐々に、胸の黒いものがダイレクトに、

声とともに「頭の中を昇って」上へ抜けていく感じを、

イメージで思い浮かべることができると思う。

恥ずかしいなら小さめの声でいいけれど、きちんと歌ってほしい。

上に昇らせるのだから、高い声で歌う曲のほうが、向いているのだ。

こうやって、動作として吐き出すと、どうなるか。

本当に、気持ちが少し、落ち着いて和らぐのである。少し気分が変わり、スッキリする。

グルグルしていた思考も、息や声、イメージなどに意識を集中させることで、止めることができる。

そのためにも、「胸の中にある」ことをしっかり感じ、味わって確認してから、吐き出してみてほしい。

実際にやってみると、意外に「気持ちよく」なれることが、わかってもらえると思う。

息や声には、実は、あなどれない力があるのだ。

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